25分声劇台本【天下五剣】 第八話
- 2017/09/07
- 16:39
天下五剣 第八話「推参! カネヒラとタケミカヅチ」
♂:2 カネヒラ、タケミカヅチ
不:3 クニツナ、ツネツグ、ミツヨ
クニツナたちは少年なので、不問としています。
♂5にしたり、♂2♀3といった比率にしたりなど、自由に上演ください。
登場人物紹介はコチラ
あらすじ
時は幻想戦国時代。『闘身 』という力を扱う者がいた。
ムネチカ救出の旅に出たヤスツナ一行に立ちはだかったのは、なんと今まで苦楽を共にしていた世話役、シノギであった。
シノギこそ、無間衆八逆鬼五の逆、悪逆 のシノギだったのである。激闘の果てにヤスツナが倒れ、シノギもまた、無間衆 のフツによってその命を散らした。
本格的に動き始める無間衆――ヤスツナの弟子の、クニツナ、ツネツグ、ミツヨは、突然の出来事が続けざまに起こり、呆然とするばかりであった……
銀鉱の奥部、銀の加工場跡と思わしき広間。
クニツナ、ツネツグ、ミツヨの足元には、無残にも鮮血を散らすヤスツナとシノギが転がっていた。
クニツナ「シノギ……兄貴……どうして……」
ツネツグ「……うう、あ……ぐ、ひっく……」
ミツヨ「……まだ、まだ助かります! 今お医者に診せれば! まだ助かります!」
クニツナ「……そうだ、そうだよ……医者、医者に――」
ツネツグ「無理だよ……! もう……シノギさんも、兄上も……息を……」
怒りに任せ、クニツナがツネツグを殴る。
クニツナ「ツネツグっ!!」
ツネツグ「ぐはっ!?」
クニツナ「診せなきゃわかんねーだろっ!? もういい! ミツヨ、二人で運ぶぞ」
ミツヨ「ああ!」
カネヒラ「残念だが、ツネツグの言ってることが真実かもな」
クニツナ「!?」
ミツヨ「誰!?」
ツネツグ「あなたは――」
振り返るとそこには、忍装束に身を包んだ銀の長髪の男がいた。
カネヒラである。
カネヒラ「無駄な努力だ。かえってお前らが絶望するだけだぜ」
クニツナ「……っっ!!」
鬼丸を抜くクニツナ。
制止を図るツネツグ。
ミツヨ「クニツナ!? やめろ、鬼丸なんて――」
クニツナ「うるせぇええっ!!」
カネヒラ「ハッ!!」
カネヒラ、鬼丸の拳を素手で受け止める。
クニツナの手から血が噴き出る。
ツネツグ「さっき受けた傷口から――クニツナ!」
ミツヨ「それと、あの人――!?」
クニツナ「!? 鬼丸の拳を――ぐほっ!?」
カネヒラ、更にクニツナに詰め寄り、彼の頬を思いっきり引っ叩く。
カネヒラ「頭冷やせっつってんだよ!」
クニツナ「こ、この野郎……!?」
カネヒラ「そいつらはもう助からない。考えてもみろ、この山中、どこに医者が居る? え? 仮に居たとして、ガキ三人で大人二人をどうやって運ぶんだ? 荷車はどこだ? 神や仏に祈ったら出て来るのか? ……現実を受け止めて、そいつらを弔ってやった方がまだ賢明だと思わねぇか」
ミツヨ「……」
ツネツグ「……」
クニツナ「……だったら」
カネヒラ「あん?」
クニツナ「……だったらこの先、俺たち、どうすりゃいいんだよ……どうしたら、ムネチカ救えるんだよ……! なぁ教えてくれよ! どうすりゃいいんだよ! 教えてくれよぉ!」
カネヒラ「……テメェで考えてみんだな」
カネヒラ、縋るクニツナを横目に、ツネツグの前に立つ。
俯いていたツネツグは、カネヒラの方へ首を向け、視線を合わせる。
ツネツグ「……」
カネヒラ「よぉツネツグ」
ツネツグ「……」
カネヒラ「つれねぇな。それが“義兄 ”に数年ぶりに会った時の態度かよ」
ミツヨ「あ、義兄 だって!?」
ツネツグ「……」
カネヒラ「よっぽど其処が気に入ってるみたいだな? え?」
ツネツグ「当たり前です……何故ぼくが、あなたと父上の下から去ったと思ってるんです!?」
カネヒラ「なら、俺が来た意味も解るよな」
ツネツグ「……承服いたしかねます」
カネヒラ「ハッ。言葉遣いだけは一丁前じゃねぇか」
ツネツグ「なんと言われようと、戻りません」
カネヒラ「いいや、首根っこ引っ掴んででも連れ戻す。お前は『古備前 』の三代目頭首となることが決まったんだからな」
ツネツグ「!?」
ミツヨ「古備前 ? ……ツネツグ殿は、一体何者なんです?」
ツネツグ「僕の家は、隠密の家系なんです」
ミツヨ「え!?」
ツネツグ「忍の様なものですが、忍と違うのは……」
カネヒラ「闘身を扱う忍だってことだ。間諜 、破壊工作、暗殺、戦においての傭兵稼業……俺たち『古備前』は殆どの奴らが闘身を扱い、任務を遂行する」
ミツヨ「な……」
カネヒラ「無論、この話を聞いたってことは、お前たちはもう無関係な奴らじゃない。俺らの味方になるか、屍 になるかの二つに一つだ」
ミツヨ「そんな……!?」
カネヒラ「味方なら、俺のやること、邪魔しねぇよな……え?」
ミツヨ「……!」
カネヒラ「ツネツグ、連れてくわ」
笑みを浮かべるカネヒラ。
その不気味さとその裏から滲み出る威圧感に身動きが取れないミツヨ。
ミツヨ「くっ……!?」
ツネツグ「……」
ツネツグ、黙ったまま、数珠丸を抜く。
カネヒラ「……なんだ、その『数珠丸』は」
ツネツグ「……」
カネヒラ「まさかテメェ俺に……兄貴に逆らおうってのか?」
ツネツグ「ッッ……!!」
ミツヨ(こ、この威圧……恐ろしい……み、身動きひとつ、取れない……)
クニツナ「やめろよ……」
ツネツグ「えっ?」
クニツナ「……やめろよ、ツネツグ。もうやめろ」
ツネツグ「ク、クニツナ……?」
カネヒラ「そら、お友だちだってあぁ言ってんだ。素直にオトナの言うことを聞いておくもんだぜ? え? ツネツグ」
ツネツグ「ク、クニツナ! どうしたんだ一体! クニツナらしく……」
クニツナ「もうやめろって言ってんだよ! もう無理だよ!」
カネヒラ「……」
ツネツグ「クニツナ……?」
クニツナ「お前ら……シノギが……兄貴が――兄貴が死んだんだぞ……今更俺らだけで、何ができるんだよ……」
ツネツグ「な、何を言ってるんだ……! そんな事言って――ムネチカ様はどうなるんだ!?」
クニツナ「俺らだけじゃ、無理だよ……それに、ムネチカが生きてる保証なんか」
ツネツグ、クニツナに殴りかかる。
ツネツグ「このっ!!」
クニツナ「ぐはっ!!??」
ツネツグ「見損なったぞ、クニツナ!! さっきまで……だって……」
クニツナ「……助けに行きたいなら、勝手にしろよ」
ツネツグ「……言われるまでもない! キミが、そんな……そんな奴だったなんて!!」
クニツナ「……」
ミツヨ「クニツナ……」
カネヒラ、大きく溜め息を吐く。
カネヒラ「無様だな」
クニツナ「……」
カネヒラ「頼みの綱が切れたら自分ではもう何もできねぇってか、え? テメェで考えるのが嫌にでもなったか? このケツの青いクソガキが!」
ツネツグ「兄上……いくら、なんでも!」
クニツナ「うるせぇうるせぇうるせぇ!! 俺はもう決めたんだ! いきなり現れた野郎が、口出しすんじゃねぇ!」
ミツヨ「クニツナ殿……」
ツネツグ「……」
カネヒラ「……ヤスツナは、人を見る目がなかったってこったな」
ツネツグ「!」
ミツヨ「!?」
クニツナ「……」
カネヒラ「とんだ盲 だったって訳だろ? こりゃ、どんな奴だったか見なくっても判るぜ。所詮は只の鈍 ら刀。二流三流の有象無象……」
クニツナ「うらぁ!!」
クニツナ、今までで最も速く鬼丸を抜き、拳を見舞うがカネヒラに受け止められる。
カネヒラ「……ほぉ」
クニツナ「……俺のことはどう言おうが構わねぇ……けどな……兄貴を……俺たちの兄貴を馬鹿にすることだけは許さねぇ……!!」
カネヒラ「弱音を吐きまくった割には、悪くねぇ拳出すじゃねぇか……ガキ、名乗れ」
クニツナ「クニツナ。ヤスツナ兄貴の弟子、闘身の銘は『鬼丸』だ!」
カネヒラ「生意気な名前背負 ってるじゃねぇか……俺は古備前筆頭、カネヒラ。振るう闘身は……『大包平 』!!」
言うが早いか、カネヒラの全身が青白く光り、銀の長髪が揺らめく。
ツネツグ「あれが義兄上 の……!」
カネヒラ「はっ!」
クニツナ「ぐっ!? 鬼丸!」
カネヒラ「甘いぜ!」
クニツナ「うあっ!? くっ!!」
拳を払われるクニツナ、改めてカネヒラとの距離を取る。
カネヒラ「ガキ、いやクニツナ、お前に一つ機会をやるよ。俺と戦って『参った』と、俺に言わせることができたら、俺たち古備前が全面的に協力してやる。兄貴の葬式だろうがガキの世話だろうがやってやるよ……それが人探しでもな」
ツネツグ「えっ!?」
ミツヨ「では……!?」
クニツナ「……!」
カネヒラ「但し、お前が『参った』と言うか、もしくはそんな口も利けねぇ程俺にぶちのめされたその時は、俺らはお前に何も手を貸さねぇ。頼れる兄貴が居なくなった道場で、泣いて暮らし続けるんだな」
クニツナ「……やってやるよ……やってやろうじゃねぇか!?」
カネヒラ「ハッ。上等だ……だが此処じゃ駄目だ。ついて来な」
クニツナ「あ! 逃げんのか!?」
カネヒラ「莫迦 も休み休み言え! いいからついて来いっつってんだよ!」
駆けるカネヒラ、それを追うクニツナ。
残されたツネツグとミツヨ、駆けて行った二人の方を見つめている。
ミツヨ「ク、クニツナ! ……く、くそっ! また、某は……何も……! どうして、どうして……!!」
ツネツグ「ミツヨ……」
地面に拳を叩きつけ、歯噛みするミツヨ。
ツネツグはそんなミツヨの肩を抱く。
ツネツグ「……何もできなかったのは、ぼくだってそうだ……まだ、誰も助けられていない……誰一人として……誰も、誰も……」
ツネツグ、シノギとヤスツナの遺体に目を遣る。
大量の血が流れ、事切れて冷たくなっているであろう身体が二つ転がっている。
ツネツグ「本当に……本当に……もう……」
ツネツグ、現実を未だ受け止めきれないのか、遺体に歩み寄る。
ツネツグ「兄上……僕たちは、この先……」
ツネツグ、ヤスツナのある異変に気が付く。
ツネツグ「……兄、上……?」
そしてそこに、歩み寄る人あり。
構えるミツヨとツネツグ。
ミツヨ「だ、誰だ!? 名を名乗れ!」
ツネツグ「待てミツヨ! ……あ、あなた方は……!?」
鉱山の外。山々に囲まれた川原。
中流辺りだろうか、川縁には砂利が敷かれて流れは然程速くない。
然し乍ら川縁や川中の所々に大きな岩石がどっかと坐している。
カネヒラ「こんな所か……ここなら落盤も何もねぇぜ? 思いっきりやり合える……加減無しでかかってきな。おっと、その手の傷は痛かねぇのか? え?」
クニツナ「悪ぃけど……こんな傷痛くもかゆくもねぇし、加減なんかハナっから、考えてねぇ!! 『鬼丸』ッッ!!」
カネヒラ「ハッ!! 殺す気で来いよぉ!? 『大包平』ッッ!!」
クニツナ「おおおおっ!!」
カネヒラ「うらああっ!!」
鬼丸の拳と、カネヒラ自身の拳がぶつかり合う。青白く光を揺らめかせるカネヒラの拳は鬼丸と対等、否それ以上の力をクニツナに感じさせる。
クニツナ「!? なんだ、この力――」
カネヒラ「今の俺には刀も通らねえ……おらぁ!!」
クニツナ「しまっ!? 腕を――ぐああっ!?」
クニツナ、カネヒラに鬼丸の手首を掴まれた為、鬼丸ごと川面に投げつけられる。
川底は陸地からの見た目以上に深く、もがきながらも水面を目指すクニツナ。
クニツナ(あいつ!? さっきもそうだったけど、なんで鬼丸を“掴める”んだ!? もしかして、あの光のせい!?)
水面へ上昇せんとするクニツナの眼前に、カネヒラの手が迫る。
カネヒラ「ふんっ!!」
クニツナ(まずいっ!!??)
カネヒラ「殺す気で来いっつったろ? いちいちトロいんだよ、お前はぁ!?」
カネヒラの手に、再び川底へ押し込まれるクニツナ。
動揺して大量の息を吐いてしまう。
クニツナ「がぼがぼがぼぉ!?」
カネヒラ「あんだぁ? 闘身を使って、水中で喋る術も習わなかったのか? フンッ!」
クニツナ「ぐぼぉ!? (と、闘身で!? そんな事、できんのか……!?)」
カネヒラ、クニツナの襟首を引っ掴んだまま水面へ突破し、更にクニツナを投げる。
投げられながらも、息を吹き返し、咽ぶクニツナ。
クニツナ「ぶはあっ!?」
カネヒラ「川原で、日向ぼっこでも、してぇか!?」
クニツナ「がはっ! ……ごほっ、ごほぉ!!」
カネヒラ「所詮口だけなんだよテメェはぁ!」
クニツナ「鬼丸ぅ……!?」
カネヒラ「あんだそのナマっちょろい防御は!!」
宙に浮いたクニツナ、必死に鬼丸を抜いてガードを固めるが甘く、カネヒラの拳を防ぎ切れない。
クニツナ「うああっ!? ……このっ!」
カネヒラ「濡れた衣の飛沫で目潰しだとぉ……? ナメんな!!」
飛沫を浴びせられても瞬き一つしないカネヒラ。
それどころか更に拳を、鬼丸に叩き込んでいく。
クニツナ「ぐっはぁあ!!??」
カネヒラ「俺を誰だと思ってんだ!? ガキのじゃれ合いじゃあねぇんだよ! そんな子ども騙しで、俺に張り合えっと……思うな!!」
次々と拳を叩き込まれ、遂に川縁に落ちるクニツナ。
水面に顔を出した岩に立つカネヒラ、独り呟く。
カネヒラ「ヤスツナの弟子やってたんだろ……え? ……まだ倒れてくれんなや……」
クニツナ「ぐ……がはっ! げほぉ!」
大量の水を飲み、咳込むクニツナ。
カネヒラは遠くからクニツナに呼びかける。
カネヒラ「どうしたクニツナ!! テメェの意地は、怒りはそんな甘ぇもんだったのか!? え!?」
クニツナ「ごほっ! ごほぉ……ま、まだ……」
膝が笑いながらも、立ち上がるクニツナ。
その様子に小さく笑むカネヒラ。
カネヒラ「ヘッ……死んだかと思ったぜ。来いよクニツナ!!」
クニツナ「負ける、訳にゃ……いか……」
立ち上がったのも束の間、気を失い、川面に無抵抗に倒れ込むクニツナ。
カネヒラ「なんだよ……えぇ? クニツナ!! 立てよオラァ! ……!!??」
その時、猛烈な“気”を感じ、戦闘態勢を取り直すカネヒラ。
カネヒラ「な、なんだ今のは……!?」
辺りを見回すが誰もない。
水面から光を放ち、ゆっくりと浮き上がるクニツナを除いては――
カネヒラ「あんだありゃあ……!?」
クニツナの身体を借りて、何者かがカネヒラに言葉を投げかける。
タケミカヅチ「……止すのだ……止すのだ、銀の髪の忍よ」
カネヒラ「気絶したかと思えば猿真似か? 芸達者じゃあねぇかクニツナよぉ」
タケミカヅチ「余の名は……タケミカヅチ……」
カネヒラ「あぁ? ……」
タケミカヅチ「雷神……タケミカヅチである!!」
カネヒラ「タケミカヅチだと……!? 神話の神様が何の用だって――!?」
鬼丸、黄金の光を纏い、カネヒラに向かって行く。
カネヒラ「鬼丸が、あの距離からここまで!? 顕現式闘身の範囲を遥かに超えて――」
鬼丸の口から、タケミカヅチの声が響く。
タケミカヅチ「鬼丸であって、鬼丸にあらず! 今はこの余が相手をしている!」
カネヒラ「そんな事がぁあ!!??」
タケミカヅチ「おおおっ!!」
カネヒラ「大包平ァァ!!」
再び拳を合わせるカネヒラと、タケミカヅチと化した鬼丸。
しかし、今までとは威力が桁外れに高く、カネヒラの拳に激痛が走る。
カネヒラ「ぐっ!? うおおおおっ!!??」
タケミカヅチ「理に解したか……然らば闘身を納めよ! 忍!」
カネヒラ「か、神様風情が、俺に指図すんじゃねぇ!?」
タケミカヅチ「愚かな……!!」
蹴りを見舞うカネヒラ。
しかしタケミカヅチの拳がカネヒラの脛を打つ。
カネヒラ「がああああっ!!??」
タケミカヅチ「闘身を納めよ、忍の者よ……彼 の者は、今死んではならぬのだ……」
カネヒラ「くっ……畜生ぉお……お、大包平 ァ!!」
タケミカヅチ「!?」
カネヒラ「大包平 ……風速翔光大拳 ……喰らいやがれぇえ!!」
カネヒラ、掌から光弾を放つ。
タケミカヅチ「なんとっ!?」
近距離にいたタケミカヅチ。
回避を行うもその肩に光弾が炸裂する。
タケミカヅチ「ぬうっ!?」
カネヒラ「思い知ったか雷神……!」
タケミカヅチ「成程……その不撓不屈 の精神、認めよう……だが!」
タケミカヅチ、目にも留まらぬ速さでカネヒラの鳩尾に拳を打ち込む。
カネヒラ「がっ!? ……は……っ!」
タケミカヅチ「これ以上の無益な戦いはするな」
カネヒラ(クソ……何だってんだ……俺は、ヤスツナに……ヤスツナの弟子に……)
カネヒラ、意識が遠のいて行く。
そしてクニツナ、何もない、真っ白な世界に一人立っている。
クニツナ「……何処だ、ここ……? 俺は一体……」
クニツナの傍らに立つ、鬼丸。
クニツナ「あれ? 鬼丸……俺は別に、お前を抜いたつもりは……」
タケミカヅチ「ここは、其方の心の中の一部である」
クニツナ「うわっ!? お前、誰だ!?」
タケミカヅチ「余の名は、雷神タケミカヅチである」
クニツナ「らい、じん……?」
タケミカヅチ「其方には、余が直々に試練を下す。その成果を以て世の乱れを断ってもらう」
クニツナ「な……いきなりそんな言われてもわかんねぇよ! それより、俺はアイツと――カネヒラって奴と!」
タケミカヅチ「無間衆 をこのままのさばらせて良いのか、クニツナよ」
クニツナ「!? なんでそれを――」
タケミカヅチ「神である余が解らぬと思うてか? 下界のことは良く知っておる」
クニツナ「なんだと……?」
タケミカヅチ「元は、ただの気まぐれであった……だがその気まぐれも、良くない方へ方へと向かっている」
クニツナ「なら……」
タケミカヅチ「これは我々としても望まぬ所。神代 から続くこの国を、また以前の様な混沌に戻す訳には行かぬ。故に余が手を貸すのだ」
クニツナ「知ってるなら……なんで! なんで兄貴を見殺しにしたんだよ!? シノギも! 皆!」
タケミカヅチ「……」
クニツナ「とんだ、ひでぇ事しやがる……なんでだ、なんでなんだよ! どうしてムネチカの兄貴を助けてくれなかったんだ!? 神様なんだろ!? なぁなんでだよ!!」
タケミカヅチ「喝!!」
クニツナ「!?」
タケミカヅチ「クニツナ、それは『運命』だ。我々神でもどうする事もできぬこの世の因果だ。為るべくして為る世の理だ。そうとしか言えぬ。言葉ではな……直に、其方も理解する時が来よう」
クニツナ「運命だって……!? 納得できるかよ!!」
タケミカヅチ「ではこのままおめおめと逃げるつもりか! 運命を受け入れず生きることは、目を瞑ったまま濁流に飛び込む様なもの。そのまま飲まれて終わりとなるのみぞ! 今すぐに理解せよとも、納得せよとも言わぬ。今は為ったものを、あるがまま受け止めるのだ……!」
クニツナ「うるせぇうるせぇ! 神様なら、生き返らせてみろよ! 兄貴を! シノギをぉ!!」
タケミカヅチに殴り掛かるクニツナ。
必死でタケミカヅチを殴ったり蹴ったりするが、何も動じない。
タケミカヅチ「……」
クニツナ「このっ! っ!? こいつっ!! お前が、居ながら、どうして、兄貴は死ななきゃいけなかったんだ!? シノギは死ななきゃいけなかったんだ!? 強ぇ兄貴が、優しいシノギが! 戦わなくっても良かったんじゃねぇのか!? 俺が! ツネツグやミツヨが! 俺たちが――!?」
クニツナの拳が止まる。
自分の手を見遣るクニツナ。
クニツナ「俺たち、が……?」
タケミカヅチ「……其方らが“強ければ”、何とする……」
クニツナ「そう、なのか……俺たちが、もっと強かったら……?」
タケミカヅチ「運命を変えられたかもしれぬな……思い当たる節が、全然ないでも無かろう」
クニツナ「……」
タケミカヅチ「もう一度、能 く能 く考えてみよ、クニツナ……其方は何を成すべきか、そして成すべきを成す為、今其方に何が必要か」
クニツナ「……」
クニツナの独白。
クニツナ(そうか……俺たちがもし、今よりもずっと強かったら、あの時、イクビの野郎には捕まらなかったし、ヒルコにも勝てたかもしれない。一も二もなく、さっさとムネチカを助けに行けたかもしれない。シノギと兄貴が戦うことになったとしても、俺たちが止められたかもしれない。神主のおっちゃんだって死ななかったかもしれない……)
己の弱さを痛感し、歯を食いしばるクニツナ。
クニツナ「……強く、なりゃあ……」
タケミカヅチ「……」
クニツナ「強くなりゃあ……」
タケミカヅチ「申せ、クニツナ」
クニツナ「強くなれば! もうこれ以上、こんな思いしないんだよな!?」
タケミカヅチ「強くなれるなら、そうかもしれぬな」
クニツナ「曖昧なこと言ってんじゃねぇよ!! あぁもうどっちだっていい! ……俺、今、いろんなことが、起きすぎてて、訳わかんねぇけど……訳わかんねぇけど、わかったんだ! わかんねぇけどわかった気がするんだ! 俺は、今より強くなる! それで、俺は兄貴の仇を討つ! シノギを死なせた奴を、俺がブッ飛ばす! ムネチカさらった奴も、無間衆八逆鬼もみんなみんな、俺がブッ倒してやる!!」
タケミカヅチ「フンッ……粗暴かつ荒削りではあるが、その意気や良し!」
クニツナ「ごちゃごちゃ言うな雷神!! いいから俺を強くしろよ!!」
タケミカヅチ「ぬうぅ……神になんという不敬な口を叩くか……まぁ良い! クニツナよ! 其方に試練を課す! 意を決すが良い!」
クニツナ「よっしゃあ!」
タケミカヅチ「その試練を超えて、闘身を神の領域に到らしめるのだ!!」
クニツナ「神の領域ぃ……?」
タケミカヅチ「左様。神の領域に到らしめる為にも、余は其方に手を貸すのだ」
クニツナ「手? どんな手だ!?」
タケミカヅチ「其方と鬼丸を、一体のものとする!」
クニツナ「なっ!? そんな事……できるのか!?」
タケミカヅチ「できる! それを以て、闘身は真の力を引き出すことができるのだ」
クニツナ「すっげぇや!! さぁそれなら早くしろよタケミカヅチ!」
タケミカヅチ「しかし! ここからが試練である。その一体となった力で、見事余に膝をつかせてみよ!」
クニツナ「はぁ!? アイツの――カネヒラの次に、お前と戦わなきゃなんねぇのかよ!?」
タケミカヅチ「文句を言うでない! 闘うか否か、返答は、二つに一つ!」
クニツナ「いいぜ! やってやらぁ!」
タケミカヅチ「良かろう! 鬼丸よ! クニツナよ! 其方らは今、一つになる時ぞ! ムムムムム……ハッ!!」
タケミカヅチが念じると、鬼丸とクニツナの身体が重なり合っていく。
クニツナ「うおっ!? すげぇ……力が……鬼丸の力が、俺に流れ込んでくるみたいだ……!!」
タケミカヅチ「早くも共鳴しているな……闘身を能く扱っていたことが解るぞ……!」
やがて、鬼を象った鎧兜に身を固めたクニツナとなる。
クニツナ「すげぇ……すげぇすげぇすげぇ! これが俺かよ!!」
タケミカヅチ「その通り! そしてこの試練を以て、闘身は、“闘神 ”と成るのだ……!!」
クニツナ「と、闘神 だって……!?」
第九話に続く。
お疲れ様でした。
感想は下部 コメント投稿欄 か 送信フォーム へ。
生放送等で使用される場合、
台本名を記入して頂けますと嬉しいです。
後日覗きに参ります。
♂:2 カネヒラ、タケミカヅチ
不:3 クニツナ、ツネツグ、ミツヨ
クニツナたちは少年なので、不問としています。
♂5にしたり、♂2♀3といった比率にしたりなど、自由に上演ください。
登場人物紹介はコチラ
あらすじ
時は幻想戦国時代。『
ムネチカ救出の旅に出たヤスツナ一行に立ちはだかったのは、なんと今まで苦楽を共にしていた世話役、シノギであった。
シノギこそ、無間衆八逆鬼五の逆、
本格的に動き始める無間衆――ヤスツナの弟子の、クニツナ、ツネツグ、ミツヨは、突然の出来事が続けざまに起こり、呆然とするばかりであった……
銀鉱の奥部、銀の加工場跡と思わしき広間。
クニツナ、ツネツグ、ミツヨの足元には、無残にも鮮血を散らすヤスツナとシノギが転がっていた。
クニツナ「シノギ……兄貴……どうして……」
ツネツグ「……うう、あ……ぐ、ひっく……」
ミツヨ「……まだ、まだ助かります! 今お医者に診せれば! まだ助かります!」
クニツナ「……そうだ、そうだよ……医者、医者に――」
ツネツグ「無理だよ……! もう……シノギさんも、兄上も……息を……」
怒りに任せ、クニツナがツネツグを殴る。
クニツナ「ツネツグっ!!」
ツネツグ「ぐはっ!?」
クニツナ「診せなきゃわかんねーだろっ!? もういい! ミツヨ、二人で運ぶぞ」
ミツヨ「ああ!」
カネヒラ「残念だが、ツネツグの言ってることが真実かもな」
クニツナ「!?」
ミツヨ「誰!?」
ツネツグ「あなたは――」
振り返るとそこには、忍装束に身を包んだ銀の長髪の男がいた。
カネヒラである。
カネヒラ「無駄な努力だ。かえってお前らが絶望するだけだぜ」
クニツナ「……っっ!!」
鬼丸を抜くクニツナ。
制止を図るツネツグ。
ミツヨ「クニツナ!? やめろ、鬼丸なんて――」
クニツナ「うるせぇええっ!!」
カネヒラ「ハッ!!」
カネヒラ、鬼丸の拳を素手で受け止める。
クニツナの手から血が噴き出る。
ツネツグ「さっき受けた傷口から――クニツナ!」
ミツヨ「それと、あの人――!?」
クニツナ「!? 鬼丸の拳を――ぐほっ!?」
カネヒラ、更にクニツナに詰め寄り、彼の頬を思いっきり引っ叩く。
カネヒラ「頭冷やせっつってんだよ!」
クニツナ「こ、この野郎……!?」
カネヒラ「そいつらはもう助からない。考えてもみろ、この山中、どこに医者が居る? え? 仮に居たとして、ガキ三人で大人二人をどうやって運ぶんだ? 荷車はどこだ? 神や仏に祈ったら出て来るのか? ……現実を受け止めて、そいつらを弔ってやった方がまだ賢明だと思わねぇか」
ミツヨ「……」
ツネツグ「……」
クニツナ「……だったら」
カネヒラ「あん?」
クニツナ「……だったらこの先、俺たち、どうすりゃいいんだよ……どうしたら、ムネチカ救えるんだよ……! なぁ教えてくれよ! どうすりゃいいんだよ! 教えてくれよぉ!」
カネヒラ「……テメェで考えてみんだな」
カネヒラ、縋るクニツナを横目に、ツネツグの前に立つ。
俯いていたツネツグは、カネヒラの方へ首を向け、視線を合わせる。
ツネツグ「……」
カネヒラ「よぉツネツグ」
ツネツグ「……」
カネヒラ「つれねぇな。それが“
ミツヨ「あ、
ツネツグ「……」
カネヒラ「よっぽど其処が気に入ってるみたいだな? え?」
ツネツグ「当たり前です……何故ぼくが、あなたと父上の下から去ったと思ってるんです!?」
カネヒラ「なら、俺が来た意味も解るよな」
ツネツグ「……承服いたしかねます」
カネヒラ「ハッ。言葉遣いだけは一丁前じゃねぇか」
ツネツグ「なんと言われようと、戻りません」
カネヒラ「いいや、首根っこ引っ掴んででも連れ戻す。お前は『
ツネツグ「!?」
ミツヨ「
ツネツグ「僕の家は、隠密の家系なんです」
ミツヨ「え!?」
ツネツグ「忍の様なものですが、忍と違うのは……」
カネヒラ「闘身を扱う忍だってことだ。
ミツヨ「な……」
カネヒラ「無論、この話を聞いたってことは、お前たちはもう無関係な奴らじゃない。俺らの味方になるか、
ミツヨ「そんな……!?」
カネヒラ「味方なら、俺のやること、邪魔しねぇよな……え?」
ミツヨ「……!」
カネヒラ「ツネツグ、連れてくわ」
笑みを浮かべるカネヒラ。
その不気味さとその裏から滲み出る威圧感に身動きが取れないミツヨ。
ミツヨ「くっ……!?」
ツネツグ「……」
ツネツグ、黙ったまま、数珠丸を抜く。
カネヒラ「……なんだ、その『数珠丸』は」
ツネツグ「……」
カネヒラ「まさかテメェ俺に……兄貴に逆らおうってのか?」
ツネツグ「ッッ……!!」
ミツヨ(こ、この威圧……恐ろしい……み、身動きひとつ、取れない……)
クニツナ「やめろよ……」
ツネツグ「えっ?」
クニツナ「……やめろよ、ツネツグ。もうやめろ」
ツネツグ「ク、クニツナ……?」
カネヒラ「そら、お友だちだってあぁ言ってんだ。素直にオトナの言うことを聞いておくもんだぜ? え? ツネツグ」
ツネツグ「ク、クニツナ! どうしたんだ一体! クニツナらしく……」
クニツナ「もうやめろって言ってんだよ! もう無理だよ!」
カネヒラ「……」
ツネツグ「クニツナ……?」
クニツナ「お前ら……シノギが……兄貴が――兄貴が死んだんだぞ……今更俺らだけで、何ができるんだよ……」
ツネツグ「な、何を言ってるんだ……! そんな事言って――ムネチカ様はどうなるんだ!?」
クニツナ「俺らだけじゃ、無理だよ……それに、ムネチカが生きてる保証なんか」
ツネツグ、クニツナに殴りかかる。
ツネツグ「このっ!!」
クニツナ「ぐはっ!!??」
ツネツグ「見損なったぞ、クニツナ!! さっきまで……だって……」
クニツナ「……助けに行きたいなら、勝手にしろよ」
ツネツグ「……言われるまでもない! キミが、そんな……そんな奴だったなんて!!」
クニツナ「……」
ミツヨ「クニツナ……」
カネヒラ、大きく溜め息を吐く。
カネヒラ「無様だな」
クニツナ「……」
カネヒラ「頼みの綱が切れたら自分ではもう何もできねぇってか、え? テメェで考えるのが嫌にでもなったか? このケツの青いクソガキが!」
ツネツグ「兄上……いくら、なんでも!」
クニツナ「うるせぇうるせぇうるせぇ!! 俺はもう決めたんだ! いきなり現れた野郎が、口出しすんじゃねぇ!」
ミツヨ「クニツナ殿……」
ツネツグ「……」
カネヒラ「……ヤスツナは、人を見る目がなかったってこったな」
ツネツグ「!」
ミツヨ「!?」
クニツナ「……」
カネヒラ「とんだ
クニツナ「うらぁ!!」
クニツナ、今までで最も速く鬼丸を抜き、拳を見舞うがカネヒラに受け止められる。
カネヒラ「……ほぉ」
クニツナ「……俺のことはどう言おうが構わねぇ……けどな……兄貴を……俺たちの兄貴を馬鹿にすることだけは許さねぇ……!!」
カネヒラ「弱音を吐きまくった割には、悪くねぇ拳出すじゃねぇか……ガキ、名乗れ」
クニツナ「クニツナ。ヤスツナ兄貴の弟子、闘身の銘は『鬼丸』だ!」
カネヒラ「生意気な名前
言うが早いか、カネヒラの全身が青白く光り、銀の長髪が揺らめく。
ツネツグ「あれが
カネヒラ「はっ!」
クニツナ「ぐっ!? 鬼丸!」
カネヒラ「甘いぜ!」
クニツナ「うあっ!? くっ!!」
拳を払われるクニツナ、改めてカネヒラとの距離を取る。
カネヒラ「ガキ、いやクニツナ、お前に一つ機会をやるよ。俺と戦って『参った』と、俺に言わせることができたら、俺たち古備前が全面的に協力してやる。兄貴の葬式だろうがガキの世話だろうがやってやるよ……それが人探しでもな」
ツネツグ「えっ!?」
ミツヨ「では……!?」
クニツナ「……!」
カネヒラ「但し、お前が『参った』と言うか、もしくはそんな口も利けねぇ程俺にぶちのめされたその時は、俺らはお前に何も手を貸さねぇ。頼れる兄貴が居なくなった道場で、泣いて暮らし続けるんだな」
クニツナ「……やってやるよ……やってやろうじゃねぇか!?」
カネヒラ「ハッ。上等だ……だが此処じゃ駄目だ。ついて来な」
クニツナ「あ! 逃げんのか!?」
カネヒラ「
駆けるカネヒラ、それを追うクニツナ。
残されたツネツグとミツヨ、駆けて行った二人の方を見つめている。
ミツヨ「ク、クニツナ! ……く、くそっ! また、某は……何も……! どうして、どうして……!!」
ツネツグ「ミツヨ……」
地面に拳を叩きつけ、歯噛みするミツヨ。
ツネツグはそんなミツヨの肩を抱く。
ツネツグ「……何もできなかったのは、ぼくだってそうだ……まだ、誰も助けられていない……誰一人として……誰も、誰も……」
ツネツグ、シノギとヤスツナの遺体に目を遣る。
大量の血が流れ、事切れて冷たくなっているであろう身体が二つ転がっている。
ツネツグ「本当に……本当に……もう……」
ツネツグ、現実を未だ受け止めきれないのか、遺体に歩み寄る。
ツネツグ「兄上……僕たちは、この先……」
ツネツグ、ヤスツナのある異変に気が付く。
ツネツグ「……兄、上……?」
そしてそこに、歩み寄る人あり。
構えるミツヨとツネツグ。
ミツヨ「だ、誰だ!? 名を名乗れ!」
ツネツグ「待てミツヨ! ……あ、あなた方は……!?」
鉱山の外。山々に囲まれた川原。
中流辺りだろうか、川縁には砂利が敷かれて流れは然程速くない。
然し乍ら川縁や川中の所々に大きな岩石がどっかと坐している。
カネヒラ「こんな所か……ここなら落盤も何もねぇぜ? 思いっきりやり合える……加減無しでかかってきな。おっと、その手の傷は痛かねぇのか? え?」
クニツナ「悪ぃけど……こんな傷痛くもかゆくもねぇし、加減なんかハナっから、考えてねぇ!! 『鬼丸』ッッ!!」
カネヒラ「ハッ!! 殺す気で来いよぉ!? 『大包平』ッッ!!」
クニツナ「おおおおっ!!」
カネヒラ「うらああっ!!」
鬼丸の拳と、カネヒラ自身の拳がぶつかり合う。青白く光を揺らめかせるカネヒラの拳は鬼丸と対等、否それ以上の力をクニツナに感じさせる。
クニツナ「!? なんだ、この力――」
カネヒラ「今の俺には刀も通らねえ……おらぁ!!」
クニツナ「しまっ!? 腕を――ぐああっ!?」
クニツナ、カネヒラに鬼丸の手首を掴まれた為、鬼丸ごと川面に投げつけられる。
川底は陸地からの見た目以上に深く、もがきながらも水面を目指すクニツナ。
クニツナ(あいつ!? さっきもそうだったけど、なんで鬼丸を“掴める”んだ!? もしかして、あの光のせい!?)
水面へ上昇せんとするクニツナの眼前に、カネヒラの手が迫る。
カネヒラ「ふんっ!!」
クニツナ(まずいっ!!??)
カネヒラ「殺す気で来いっつったろ? いちいちトロいんだよ、お前はぁ!?」
カネヒラの手に、再び川底へ押し込まれるクニツナ。
動揺して大量の息を吐いてしまう。
クニツナ「がぼがぼがぼぉ!?」
カネヒラ「あんだぁ? 闘身を使って、水中で喋る術も習わなかったのか? フンッ!」
クニツナ「ぐぼぉ!? (と、闘身で!? そんな事、できんのか……!?)」
カネヒラ、クニツナの襟首を引っ掴んだまま水面へ突破し、更にクニツナを投げる。
投げられながらも、息を吹き返し、咽ぶクニツナ。
クニツナ「ぶはあっ!?」
カネヒラ「川原で、日向ぼっこでも、してぇか!?」
クニツナ「がはっ! ……ごほっ、ごほぉ!!」
カネヒラ「所詮口だけなんだよテメェはぁ!」
クニツナ「鬼丸ぅ……!?」
カネヒラ「あんだそのナマっちょろい防御は!!」
宙に浮いたクニツナ、必死に鬼丸を抜いてガードを固めるが甘く、カネヒラの拳を防ぎ切れない。
クニツナ「うああっ!? ……このっ!」
カネヒラ「濡れた衣の飛沫で目潰しだとぉ……? ナメんな!!」
飛沫を浴びせられても瞬き一つしないカネヒラ。
それどころか更に拳を、鬼丸に叩き込んでいく。
クニツナ「ぐっはぁあ!!??」
カネヒラ「俺を誰だと思ってんだ!? ガキのじゃれ合いじゃあねぇんだよ! そんな子ども騙しで、俺に張り合えっと……思うな!!」
次々と拳を叩き込まれ、遂に川縁に落ちるクニツナ。
水面に顔を出した岩に立つカネヒラ、独り呟く。
カネヒラ「ヤスツナの弟子やってたんだろ……え? ……まだ倒れてくれんなや……」
クニツナ「ぐ……がはっ! げほぉ!」
大量の水を飲み、咳込むクニツナ。
カネヒラは遠くからクニツナに呼びかける。
カネヒラ「どうしたクニツナ!! テメェの意地は、怒りはそんな甘ぇもんだったのか!? え!?」
クニツナ「ごほっ! ごほぉ……ま、まだ……」
膝が笑いながらも、立ち上がるクニツナ。
その様子に小さく笑むカネヒラ。
カネヒラ「ヘッ……死んだかと思ったぜ。来いよクニツナ!!」
クニツナ「負ける、訳にゃ……いか……」
立ち上がったのも束の間、気を失い、川面に無抵抗に倒れ込むクニツナ。
カネヒラ「なんだよ……えぇ? クニツナ!! 立てよオラァ! ……!!??」
その時、猛烈な“気”を感じ、戦闘態勢を取り直すカネヒラ。
カネヒラ「な、なんだ今のは……!?」
辺りを見回すが誰もない。
水面から光を放ち、ゆっくりと浮き上がるクニツナを除いては――
カネヒラ「あんだありゃあ……!?」
クニツナの身体を借りて、何者かがカネヒラに言葉を投げかける。
タケミカヅチ「……止すのだ……止すのだ、銀の髪の忍よ」
カネヒラ「気絶したかと思えば猿真似か? 芸達者じゃあねぇかクニツナよぉ」
タケミカヅチ「余の名は……タケミカヅチ……」
カネヒラ「あぁ? ……」
タケミカヅチ「雷神……タケミカヅチである!!」
カネヒラ「タケミカヅチだと……!? 神話の神様が何の用だって――!?」
鬼丸、黄金の光を纏い、カネヒラに向かって行く。
カネヒラ「鬼丸が、あの距離からここまで!? 顕現式闘身の範囲を遥かに超えて――」
鬼丸の口から、タケミカヅチの声が響く。
タケミカヅチ「鬼丸であって、鬼丸にあらず! 今はこの余が相手をしている!」
カネヒラ「そんな事がぁあ!!??」
タケミカヅチ「おおおっ!!」
カネヒラ「大包平ァァ!!」
再び拳を合わせるカネヒラと、タケミカヅチと化した鬼丸。
しかし、今までとは威力が桁外れに高く、カネヒラの拳に激痛が走る。
カネヒラ「ぐっ!? うおおおおっ!!??」
タケミカヅチ「理に解したか……然らば闘身を納めよ! 忍!」
カネヒラ「か、神様風情が、俺に指図すんじゃねぇ!?」
タケミカヅチ「愚かな……!!」
蹴りを見舞うカネヒラ。
しかしタケミカヅチの拳がカネヒラの脛を打つ。
カネヒラ「がああああっ!!??」
タケミカヅチ「闘身を納めよ、忍の者よ……
カネヒラ「くっ……畜生ぉお……お、
タケミカヅチ「!?」
カネヒラ「
カネヒラ、掌から光弾を放つ。
タケミカヅチ「なんとっ!?」
近距離にいたタケミカヅチ。
回避を行うもその肩に光弾が炸裂する。
タケミカヅチ「ぬうっ!?」
カネヒラ「思い知ったか雷神……!」
タケミカヅチ「成程……その
タケミカヅチ、目にも留まらぬ速さでカネヒラの鳩尾に拳を打ち込む。
カネヒラ「がっ!? ……は……っ!」
タケミカヅチ「これ以上の無益な戦いはするな」
カネヒラ(クソ……何だってんだ……俺は、ヤスツナに……ヤスツナの弟子に……)
カネヒラ、意識が遠のいて行く。
そしてクニツナ、何もない、真っ白な世界に一人立っている。
クニツナ「……何処だ、ここ……? 俺は一体……」
クニツナの傍らに立つ、鬼丸。
クニツナ「あれ? 鬼丸……俺は別に、お前を抜いたつもりは……」
タケミカヅチ「ここは、其方の心の中の一部である」
クニツナ「うわっ!? お前、誰だ!?」
タケミカヅチ「余の名は、雷神タケミカヅチである」
クニツナ「らい、じん……?」
タケミカヅチ「其方には、余が直々に試練を下す。その成果を以て世の乱れを断ってもらう」
クニツナ「な……いきなりそんな言われてもわかんねぇよ! それより、俺はアイツと――カネヒラって奴と!」
タケミカヅチ「
クニツナ「!? なんでそれを――」
タケミカヅチ「神である余が解らぬと思うてか? 下界のことは良く知っておる」
クニツナ「なんだと……?」
タケミカヅチ「元は、ただの気まぐれであった……だがその気まぐれも、良くない方へ方へと向かっている」
クニツナ「なら……」
タケミカヅチ「これは我々としても望まぬ所。
クニツナ「知ってるなら……なんで! なんで兄貴を見殺しにしたんだよ!? シノギも! 皆!」
タケミカヅチ「……」
クニツナ「とんだ、ひでぇ事しやがる……なんでだ、なんでなんだよ! どうしてムネチカの兄貴を助けてくれなかったんだ!? 神様なんだろ!? なぁなんでだよ!!」
タケミカヅチ「喝!!」
クニツナ「!?」
タケミカヅチ「クニツナ、それは『運命』だ。我々神でもどうする事もできぬこの世の因果だ。為るべくして為る世の理だ。そうとしか言えぬ。言葉ではな……直に、其方も理解する時が来よう」
クニツナ「運命だって……!? 納得できるかよ!!」
タケミカヅチ「ではこのままおめおめと逃げるつもりか! 運命を受け入れず生きることは、目を瞑ったまま濁流に飛び込む様なもの。そのまま飲まれて終わりとなるのみぞ! 今すぐに理解せよとも、納得せよとも言わぬ。今は為ったものを、あるがまま受け止めるのだ……!」
クニツナ「うるせぇうるせぇ! 神様なら、生き返らせてみろよ! 兄貴を! シノギをぉ!!」
タケミカヅチに殴り掛かるクニツナ。
必死でタケミカヅチを殴ったり蹴ったりするが、何も動じない。
タケミカヅチ「……」
クニツナ「このっ! っ!? こいつっ!! お前が、居ながら、どうして、兄貴は死ななきゃいけなかったんだ!? シノギは死ななきゃいけなかったんだ!? 強ぇ兄貴が、優しいシノギが! 戦わなくっても良かったんじゃねぇのか!? 俺が! ツネツグやミツヨが! 俺たちが――!?」
クニツナの拳が止まる。
自分の手を見遣るクニツナ。
クニツナ「俺たち、が……?」
タケミカヅチ「……其方らが“強ければ”、何とする……」
クニツナ「そう、なのか……俺たちが、もっと強かったら……?」
タケミカヅチ「運命を変えられたかもしれぬな……思い当たる節が、全然ないでも無かろう」
クニツナ「……」
タケミカヅチ「もう一度、
クニツナ「……」
クニツナの独白。
クニツナ(そうか……俺たちがもし、今よりもずっと強かったら、あの時、イクビの野郎には捕まらなかったし、ヒルコにも勝てたかもしれない。一も二もなく、さっさとムネチカを助けに行けたかもしれない。シノギと兄貴が戦うことになったとしても、俺たちが止められたかもしれない。神主のおっちゃんだって死ななかったかもしれない……)
己の弱さを痛感し、歯を食いしばるクニツナ。
クニツナ「……強く、なりゃあ……」
タケミカヅチ「……」
クニツナ「強くなりゃあ……」
タケミカヅチ「申せ、クニツナ」
クニツナ「強くなれば! もうこれ以上、こんな思いしないんだよな!?」
タケミカヅチ「強くなれるなら、そうかもしれぬな」
クニツナ「曖昧なこと言ってんじゃねぇよ!! あぁもうどっちだっていい! ……俺、今、いろんなことが、起きすぎてて、訳わかんねぇけど……訳わかんねぇけど、わかったんだ! わかんねぇけどわかった気がするんだ! 俺は、今より強くなる! それで、俺は兄貴の仇を討つ! シノギを死なせた奴を、俺がブッ飛ばす! ムネチカさらった奴も、無間衆八逆鬼もみんなみんな、俺がブッ倒してやる!!」
タケミカヅチ「フンッ……粗暴かつ荒削りではあるが、その意気や良し!」
クニツナ「ごちゃごちゃ言うな雷神!! いいから俺を強くしろよ!!」
タケミカヅチ「ぬうぅ……神になんという不敬な口を叩くか……まぁ良い! クニツナよ! 其方に試練を課す! 意を決すが良い!」
クニツナ「よっしゃあ!」
タケミカヅチ「その試練を超えて、闘身を神の領域に到らしめるのだ!!」
クニツナ「神の領域ぃ……?」
タケミカヅチ「左様。神の領域に到らしめる為にも、余は其方に手を貸すのだ」
クニツナ「手? どんな手だ!?」
タケミカヅチ「其方と鬼丸を、一体のものとする!」
クニツナ「なっ!? そんな事……できるのか!?」
タケミカヅチ「できる! それを以て、闘身は真の力を引き出すことができるのだ」
クニツナ「すっげぇや!! さぁそれなら早くしろよタケミカヅチ!」
タケミカヅチ「しかし! ここからが試練である。その一体となった力で、見事余に膝をつかせてみよ!」
クニツナ「はぁ!? アイツの――カネヒラの次に、お前と戦わなきゃなんねぇのかよ!?」
タケミカヅチ「文句を言うでない! 闘うか否か、返答は、二つに一つ!」
クニツナ「いいぜ! やってやらぁ!」
タケミカヅチ「良かろう! 鬼丸よ! クニツナよ! 其方らは今、一つになる時ぞ! ムムムムム……ハッ!!」
タケミカヅチが念じると、鬼丸とクニツナの身体が重なり合っていく。
クニツナ「うおっ!? すげぇ……力が……鬼丸の力が、俺に流れ込んでくるみたいだ……!!」
タケミカヅチ「早くも共鳴しているな……闘身を能く扱っていたことが解るぞ……!」
やがて、鬼を象った鎧兜に身を固めたクニツナとなる。
クニツナ「すげぇ……すげぇすげぇすげぇ! これが俺かよ!!」
タケミカヅチ「その通り! そしてこの試練を以て、闘身は、“
クニツナ「と、
第九話に続く。
お疲れ様でした。
感想は下部 コメント投稿欄 か 送信フォーム へ。
生放送等で使用される場合、
台本名を記入して頂けますと嬉しいです。
後日覗きに参ります。
スポンサーサイト