20分声劇台本【天下五剣】 第十一話
- 2018/04/15
- 01:54
天下五剣 第十一話「覚醒! 銘は鬼丸国綱!」
♂:2 ヒサクニ、タケミカヅチ
♀:1 スズ
不:2 クニツナ、クニヤス
モブ:兵士(甲・乙)
クニツナ、クニヤスは少年の為、不問としています。
ヒサクニはイケメンなら女声でも全然有りです。
兵士はテキトーに適度に兼任してください! タケミカヅチ役の人とか!
また、今回はセリフのない役ですら似通った名前が非常に多いのでお気を付け下さいませ。
登場人物紹介はコチラ
あらすじ
時は幻想戦国時代。『闘身 』という力を扱う者がいた。
ツネツグ、ミツヨらがそれぞれ旅立った頃、クニツナは眠りについたままであった。
ミツヨやシロガネに守られながら、クニツナは深い精神の世界にいた。
己を強くするため、闘身の高み『闘神 』へと成る為、雷神タケミカヅチと試練を重ねるのであった――!
クニツナの精神世界。
タケミカヅチと稽古をするクニツナ。
その身には闘神となった鬼丸をまとっている。
クニツナ「うおおおおりゃああああっっ!!」
タケミカヅチ「チェェェエストォォォオッ!!」
タケミカヅチの拳を喰らい、吹き飛ぶクニツナ。
クニツナ「ぐわああああっ!!」
タケミカヅチ「どうしたクニツナ! まるでなっていないではないか!」
クニツナ「ま、まぐれだってんだ!」
タケミカヅチ「そんな事では我の膝は地に着かんぞ!」
クニツナ「今に、見てろってんだ! うぅりゃあぁっ!!」
タケミカヅチ「ふんっ!」
クニツナ「てやっ! はっ!」
連撃を見舞うクニツナ。
それらを全て受け流すタケミカヅチ。
タケミカヅチ「確かに、徐々にではあるが、闘神 としての己に、意識を集中しつつある!」
クニツナ「でりゃあっ!」
タケミカヅチ「顕現式闘身 の場合、闘身の操作と、自身の所作、二つの意識が必要になるが、闘神としてまとった場合、意識は自ずと集中される!」
クニツナ「はあっ!」
クニツナの拳を受け止めるタケミカヅチ。
タケミカヅチ「即ち、闘身と一つにならんとしている!」
タケミカヅチ、クニツナの脚を払う。
クニツナ「ぐぅ!? うわぁ!?」
体を崩し、仰向けになったクニツナの顔面ぎりぎりに拳を振り落とすタケミカヅチ。
タケミカヅチ「で、あるが。まだまだ甘い」
クニツナ「くっそぉお……!!」
悔しさのあまり、地面に拳を打ちつけるクニツナ。
クニツナを跨いでいた体を戻すタケミカヅチ。
タケミカヅチ「我が無間衆 であったなら、その脳天が瓜実 の様に砕けていたぞ」
クニツナ「畜生ぉ……なんでだ……!?」
タケミカヅチ「クニツナ。闘身とは、何ぞや」
クニツナ「えっ――」
タケミカヅチ「答えよ」
クニツナ、暫時思案した後に言う。
クニツナ「闘身は……闘身は、俺だ! 闘身は、侍の魂。侍の魂は、俺の魂だ!」
タケミカヅチ「ほう。良い師を持ったな、クニツナよ」
クニツナ「あったり前だ!」
タケミカヅチ「だが、御主は誰ぞからこうも聞いたはずだ――『闘身とは、闘う心。闘争心』だと」
クニツナ「そ、それは、ヒルコが――」
タケミカヅチ「間違っているとでも言いたげだが、クニツナよ、これは全く違う訳でも無いのだ」
クニツナ「なんだって?」
タケミカヅチ「御主はまだ若い。故に強敵と闘うことを恐れない。しかしそれは“匹夫 の勇 ”というもの――真の勇気ではない」
クニツナ「ゆ、勇気ならあらぁ!」
タケミカヅチ「ふっ――では、今またお前はシノギと闘えるか?」
クニツナ「!?」
タケミカヅチ「どうだ」
鉱山の一件が呼び起こされるクニツナ。
二の句が継げない。
クニツナ「くっ……」
タケミカヅチ「綻びはいつか布を裂く。ヒビはいつか刀を折る――クニツナ、御主に試練を与える」
クニツナ「う、受けてやるよ……!」
タケミカヅチ「良かろう。だが、御主にとって、これは辛い試練になろう……ムムムム……ハァ!!」
クニツナ「うわっ!?」
光の様な、辻風の様なものを感じ、目を瞑るクニツナ。
再び目を開けた時には、どこかの村に居た。
クニツナ「なんだ……? なんだよコレ……ここは、ここは何処だ?」
ヒサクニ「こらっ! クニツナ!」
クニツナ「うわぁあ!?」
突然の怒鳴り声に驚き、振り向くと、見覚えのない――と言い切れない青年、ヒサクニが立っていた。
クニツナに歩み寄る。
ヒサクニ「お前またトシ坊にコブ作っただろ!? 来い! 一緒に謝りに行くぞ!」
クニツナ「な、な、なんだよいきなり!? あんた、誰だよ――」
ヒサクニに手を取られ、なすがまま引っ張られるクニツナ。
ヒサクニ「あ! トシのお母さん! ウチのクニツナが、この度はとんだご無礼を……ほら、お前も頭下げろ!」
クニツナ(コイツ……どこかで……)
スズ「こらっ! クニツナ!」
クニツナ「えっ?」
頭を上げると、空間が一息に変わって、これもまた見覚えのある様な家の中に変わる。
夕餉の時間の様だ。
着物をゆるく着た女性――スズが奥に座っている。
クニツナ「い、いつの間に? 家……?」
スズ「何ぼうっとしてんだい。早く喰いな。飯が冷めちまうじゃないか」
クニツナ「え……あの」
クニヤス「早く食えよクニツナ」
クニツナ「お、おう」
スズ「クニトモ、喰い終わったらヒサと裏見に行って薪を数えてきな。おらキヨ! 飯がこぼれてんじゃないか。アリクニ、なんだいその足は? ちゃんとしな!」
クニツナ「……」
クニヤス「……もらいっ」
スズの気風に押されているクニツナ。
クニヤス、クニツナのおかずを奪う。
クニツナ「あっ!?」
クニヤス「ぼっとしてるお前が悪い」
クニツナ「俺の飯だぞ!?」
スズ「ヤス! まだお前の分があんだろ! 何クニツナのを盗ってんだ、返してやんな!」
クニヤス「はぁい」
渋々とクニツナにおかずを返すクニヤス。
ヒサクニ、心配そうにクニツナに声をかける。
ヒサクニ「クニツナ、具合悪いのか? 何も口にしてないじゃないか」
クニツナ「わ、悪くないけど……」
ヒサクニ「そうか。好き嫌い無く食えよ」
クニツナ(皆、どこかで、見たことある……どこで……?)
スズ「アンタ――淋しいだろうから、来てやったよ」
クニツナ「また――あれ? ……ここは」
森を抜けた、小高い丘――と形容するにはあまりにも狭い場所。
すぐ下は崖となっているが、遠くには田畑が広がり、雄々しい山々も見える。
スズの前には、粗末な墓標が立てられていた。
木には〔粟田〕や〔国〕と、たどたどしく刻まれている。
スズ「もうすぐ、アンタの命日だよ……」
スズ、持ってきた濁酒を墓標にかけ、残った分を飲み干す。
スズ「一年――あっという間の様な、永かった様な……クニトモは、相変わらず無愛想だけど、立派に田畑を耕して、大したもんだよ。ヒサクニは弟達の面倒をよく見てくれてるし、クニヤスはまだまだ悪さしてるけど、元気に育ってさ……クニキヨ、アリクニなんか二人してそこら中を駆けずり回って……それに、アンタ、見なよホラ――」
スズ、横に居たクニツナの手を引き、墓標の前に立たせる。
クニツナ「っ……」
スズ「クニツナ、こんなに大きくなったんだよ……皆、つつがなくさ……アンタのおかげでさ……」
クニツナを背から抱きしめるスズ。
クニツナ「……父ちゃんと、母ちゃん……じゃあ、さっきのも、皆――」
クニヤス「おっ母! 大変だよ隣の村が燃えて! お侍がいっぱい!」
クニツナ「!?」
クニツナが気が付くと、自分の家に戻っていた。
物々しい雰囲気を一気に感じて、拳をぐっと握りしめている。
ヒサクニ「おっ母、お侍が来る前に此処を――」
スズ「黙んな! アタシらが、誰のお陰で今日まで生きてこれたと思ってんだい!? ……アタシらの村はアタシらで守るんだよ。父ちゃんの様に」
クニヤス「!?」
ヒサクニ「……」
スズ「クニトモ、すぐに来 の家の人たちを呼んで来な」
クニトモ、静かに頷くと颯爽と家を出る。
クニツナ、眠っていた記憶が段々と甦ってくる。
クニツナ「あ……あ……」
スズ「お前たち、封印を解く時だよ」
ヒサクニ「ふ、封印って、まさか」
スズ「抜くんだよ……闘身を」
クニヤス「闘、身……」
ヒサクニ「でも、おっ母……」
クニツナ「――思い出した」
スズ「……わかったよ。アタシが手本を見してやる。アタシを真似しな」
クニツナ「母ちゃん……ダメだ……!?」
クニツナ、スズに歩み寄ろうとするが体が動かない。
クニツナ「身体が、動かない……?」
クニツナ、ふと気が付くと、自分の身体が小さくなっていることに気が付く――当時の自分自身になっていたのである。
意識のみが今の自分のまま、自分の記憶を追体験していることに気が付いた。
クニツナ「こ、これは……俺だ……あの時の、俺だ」
スズ「アンタ……許しておくれよ……出な――『善鬼 』!」
クニヤス「うわっ!?」
クニツナ「あ、あれが……母ちゃんの……鬼丸……?」
クニツナたちの目の前には、鬼丸に瓜二つの闘身『善鬼』が顕現したのであった。
ヒサクニ「こ、これが、闘身……!?」
スズ「ヒサクニ、クニヤス、クニキヨ、アリクニ……お前たちも皆、闘身を佩 いてる……抜きな。銘は、それぞれの胸の奥底から、自然と言葉が浮き上がるはずさ、やってみな」
ヒサクニ「……トモ兄も?」
スズ「お前たちは皆、アタシの血を継いでる。クニトモは既に闘身を抜いている頃だよ」
ヒサクニ「……わかった。皆、見てろよ……」
ヒサクニ、立ち上がって皆より一歩前に出る。
クニヤス「ヒサ兄?」
ヒサクニ「……はああっ! 我が闘身よ、この声に応えよ……『明堂 』、出ろ!」
クニツナ「そうだ……皆」
ヒサクニ、僧兵の様な闘身『明堂』を抜く。
クニツナやスズと同じく、顕現式闘身だ。
スズ「……上等だよ。さぁ、皆もヒサに続きな」
ヒサクニ「ヤス、お前もできる。やってみろ」
クニヤス「お、おう……! はあああっ……!!」
クニツナ「ダメだ……ダメだ! 行っちゃダメだよ! だって、だってよぉ!?」
クニツナ、声をかけるが、もう誰も自分の声が耳に入っていない様である。
スズ、クニツナに歩み寄る。
スズ「クニツナ……」
クニツナ「……母ちゃん……!!」
スズ「お前にまでこんな思いさせなきゃいけないなんて……アタシを……母ちゃんを許しておくれ……」
クニツナ「母ちゃん……」
ヒサクニ、スズの肩に手を置く。
ヒサクニ「おっ母、クニツナは、俺が守る」
スズ「……トモも、ヒサも、父ちゃんそっくりになってきちまったね……頼んだよ」
クニヤス「おっ母! トモ兄 ぃが帰ってきた! 来 のおじさん達もいる!」
クニツナ「……兄貴……ッ!!」
ヒサクニ、今までに見せたことも無い深い悲しみに包まれた顔を浮かべ、囁く。
ヒサクニ「もしもの時は、お前だけでも、生き残ってくれ」
クニツナ「待って、待ってくれよ……俺も! 俺も『鬼丸』で! 一緒に闘う! くそ! 動け! 出ろよ鬼丸!!」
最早自分の意思で動くこともできないクニツナ。
記憶は更に進む。
スズ「いくよ、お前たち」
クニツナ「駄目だよ、いったら、いったら……!!??」
村の前、眼前には呆れ返るほどの兵士たち。
対してこちらは十数名ほどの農民と、十数体の闘身。
先頭に立つスズが大喝一声を放つ。
スズ「いかなお侍方といえど! 我らの郷を踏み躙 ることは相成らぬ! 我は粟田 のクニイエが妻スズ! この『善鬼』で以って、お相手仕る!!」
クニツナ「母ちゃん! 兄貴! 皆っ!!」
ヒサクニ「行くぞ明堂!!」
クニヤス「うおおおおおおおっっ!!」
クニツナ「やめろおおおおおっっ!!」
クニツナの咆哮が空しく木霊する。
戦いは、最初こそスズらが圧倒していたが、多勢に無勢。
次々と、傷つき倒れていく農民たち。
やがて、村に火の手が上がる。
クニヤス「火が! 火が上がってるよぉ!」
狼狽したクニヤスが、ヒサクニの下に駆けてくる。
クニツナ「ヤス兄ぃ! 逃げろぉ!」
ヒサクニ「ヤス!!??」
クニヤスの後頭部から、矢が直撃する。
クニヤス「がっ!?」
その後続けて第二矢、第三矢とクニヤスを貫いていく。
クニヤス「……あ……ヒサ、おっ母ぁ……」
ヒサクニ「ヤスぅぅぅぅっ!! うあああああっっ!!」
ヒサクニ、怒りに任せて周囲の兵を惨殺。
クニツナ「兄貴ぃ……兄貴ぃ、逃げてくれぇ……」
クニトモ、絶命しているにも拘らずその場に立ったまま動かない。
兵士甲「なんだコイツ! いくら刺しても切っても倒れねぇ!」
兵士乙「た、立ち往生だ……! こいつぁ、あの弁慶の生まれ変わりか!?」
クニツナ「トモ兄ぃ……トモ兄ぃ……もういいよぉ」
スズ「……村が、燃えてる……アタシの子も、皆、死んでく……」
スズ、両目から血の涙が流れている。
最早何の視界もない様であった。
辺りには、何十何百と薙ぎ払ったかわからない死体たちで埋め尽くされていた。
スズ「アンタ……アンタが愛してくれたこの身体、もう誰にも汚さしゃしないよ……アタシの命と引き換えに、こいつら――」
兵士甲「この……この化けモンがぁ!」
スズの腹を、兵士の一本の槍が刺し貫くと、それに続けて四方八方から串刺しにされる。
スズ「ぐふぅ!!?? ――そうさ、それでいいんだよ……お前さんたち、アタシと一緒に黄泉路 でもどうだい? ……善鬼ぃ!!」
兵士甲「な、なんだ!? うわあああああっ!!」
クニツナ「母ちゃん……母ちゃああああああんっ!!」
スズの身体が光ったと思うと、爆発が起きる。
クニツナの意識もどこかへ行ったかと思うと、父の墓標のあった丘に切り替わる。
ヒサクニ「クニ、ツナ……クニツナ」
クニツナ「!?」
声に応じて目を開くと、重傷を負ったヒサクニが居た。
どうやらクニツナを庇いながらここまで逃げてきた様だ。
ヒサクニ「目が、覚めたか……良かった」
クニツナ「兄貴、兄貴、嫌だ、もう嫌だ嫌だよ、もう、何もしなくていいよ……兄貴、兄貴が死んじゃうよぉ」
ヒサクニ「クニツナ……お前だけでも、生きてくれ」
クニツナ「兄貴……」
ヒサクニ「そして、幸せに――」
兵士乙「やああああああっ!!」
ヒサクニ「!? でやあああっ!!」
突如現れた兵士。咄嗟に構えるヒサクニ。
振り向きざまに明堂の攻撃を当てるも、自分の胸にも深々と槍が突き刺さる。
ヒサクニ「……クニ、ツ……」
ヒサクニ、力尽きる。
クニツナ「……うああああああああああああああっっっ!!!」
全てが暗転する。
後に残ったのは、うずくまって、泣きじゃくるクニツナとそれを見守るタケミカヅチの姿であった。
長い、長い慟哭の後、タケミカヅチが口を開いた。
タケミカヅチ「これが、お前が閉ざしていた、お前の記憶である」
クニツナ「うっ……ううっ……母ちゃんも、兄貴も……皆、村を救おうとして……戦って……皆……死んじゃって……どうして……どうして、こんな事……」
タケミカヅチ「試練であるからだ」
クニツナ「試練……」
スズ「クニツナ」
クニツナ「!?」
ヒサクニ「クニツナ」
顔を上げると、当時の姿をしたスズと、ヒサクニが立っていた。
クニツナ「母ちゃん……兄貴……!?」
スズ「クニツナ……こっちへおいで」
ヒサクニ「クニツナ……こっちへおいで」
優しい眼で、クニツナを見ながら、ゆっくりと手招きしている。
駆け寄るクニツナ。
クニツナ「母ちゃん……兄貴!」
スズ「クニツナ……お前も、地獄へと」
クニツナ「!?」
ヒサクニ「道連れにしてやる!」
ヒサクニ、クニツナの首を絞める。
二人の姿はやがて醜い悪鬼に変貌していく。
クニツナ「ぐっ! かはっ! やめ……兄貴……!」
スズ「どうして、どうしてお前だけ」
ヒサクニ「生き残った……どうして、お前だけ!」
クニツナ「そんな……俺は……!」
スズ「お前も、私たちと」
ヒサクニ「同じ道を辿らせてやる!」
クニツナ「お、鬼丸ぅ……!」
苦し紛れに鬼丸をまとおうとするが、叶わず。
ヒサクニに投げ飛ばされてしまう。
ヒサクニ「小癪なぁ!」
クニツナ「うああっ!」
地面に打ちつけられ、転がるクニツナ。
スズ「なぁんだその貧弱な闘身はぁ!?」
スズの姿をした悪鬼に叩きのめされていくクニツナ。
クニツナ「な、殴れる訳……ぐはっ! ねぇじゃねぇかよぉ……」
ヒサクニ「ならば!」
クニツナ「ぐっ!?」
スズとヒサクニの手で吊り上げられていくクニツナ。
息ができない。
スズ「この場でとどめを刺してくれる!!」
ヒサクニ「俺たちと同じ運命をお前に辿らせてやる!!」
クニツナ「……それで……」
タケミカヅチ「……」
タケミカヅチはじっと事の次第を眺めているのみ。
クニツナ「それで、母ちゃんの、兄貴たちの、気が済むなら……」
タケミカヅチ「やはり、肉親には抗えぬか……む?」
クニツナ「兄貴の……気が……“兄貴”……?」
タケミカヅチ「……!」
クニツナ「兄貴……シノギ……ムネチカ……ツネツグ、ミツヨ、皆……!!」
タケミカヅチ「おお……」
クニツナ、スズとヒサクニの手首を両手で掴む。
クニツナ「なら、なんで俺だけを」
ヒサクニ「!?」
クニツナ「『俺だけでも』って、俺を生かしてくれたんだよ? 逃げなかったんだよ!? 俺だけでも生きて欲しかった、そうだろう!?」
スズ「う……ぐ……!」
クニツナ「今だ!」
クニツナ、隙を見て自分を締め上げていた手から逃れる。
ヒサクニ「ぐあっ!?」
スズ「しまった!」
クニツナ「俺は、もう後悔はしない! 母ちゃんや兄貴、シノギや、“兄貴”の分まで生きる! 強くなって、生き続けることが、俺にできる兄貴たちへの恩返しだ!」
ヒサクニ「生意気なあああ!!」
クニツナ「だったら何なんだああああああ!!」
タケミカヅチ「おおお!!」
クニツナ「闘神 、転装 !」
クニツナの闘身『鬼丸』が甲冑と一振りの刀の様に変化し、クニツナの身を包む。
タケミカヅチ「成った……成ったぞ!」
クニツナ「転装 ! 鬼丸国綱 !!」
スズ「ううっ!?」
ヒサクニ「こ、これは……!?」
タケミカヅチ「これぞ……! これぞ闘身の高み! 神の領域に上り詰めた闘志! 銘は、闘神 !!」
クニツナ「我が闘神 は鬼を装い、猛 き力で邪を祓 わん。然 して振るうは破邪顕正 、汝 が邪鬼を善鬼 が正す!」
スズ「おのれええええええええっ!!」
クニツナに飛びかかるスズ。
クニツナ「母ちゃん……母ちゃんの意志、俺が継ぐよ……破邪顕正 、鬼神双合拳 !!」
クニツナ、気合を込め、両の掌を組み、スズに突き出す。
気功と共にスズに拳が命中。
スズ、光の中に消えていく。
スズ「ぐあああああっ!!」
クニツナ「母ちゃん……」
ヒサクニ「クゥゥニィィイツナァァァアッ!!」
ヒサクニもまた、クニツナに飛びかかっていく。
クニツナ、腰に佩いた刀を抜く。
クニツナ「兄貴……兄貴たちの分まで……俺は生きるよ……撥乱反正 、降魔両断剣 !!」
クニツナ、一振りでヒサクニを両断する。
ヒサクニ「がああああっ!!」
ヒサクニもまた、光の中に消えていく。
クニツナ、体力を消耗したのか、膝をつく。
クニツナ「……くっ」
タケミカヅチ「これが、闘神の力……!!」
クニツナ「はぁ……はぁ……」
朦朧とした意識の中で、スズとヒサクニの声が聞こえてくる。
スズ「大きくなったわね、クニツナ」
クニツナ「!?」
ヒサクニ「ああ。自慢の弟だよ、お前は」
クニツナ「母ちゃん……兄貴……?」
スズ「……」
ヒサクニ「……」
笑顔でクニツナを見遣るスズとヒサクニ。
背後からはクニヤスやクニトモ、兄弟たちが現れ、クニツナに手を振る。
クニツナ「皆……!!」
皆の姿が遠くなり、やがて消えていく。
タケミカヅチ「見事なり! クニツナ!」
クニツナ「タケミカヅチのおっさん……!!」
目にも留まらぬ速さでタケミカヅチの頬にフックを当てるクニツナ。
タケミカヅチ、わざと避けず止めず、黙って拳を喰らう。
クニツナ「ひでぇ夢見させてくれるじゃねぇか」
タケミカヅチ「しかし、御主はそれを乗り越えた。決してそれは、容易なことではない。その成果が、その姿である」
クニツナ「……なんで受け止めなかった」
タケミカヅチ「せめてもの、情けである」
クニツナ「……」
タケミカヅチ「その拳の速さ、強さ、正しく今までと比べ様もない。我が膝をつくのは、時間の問題であろう」
クニツナ「……俺が『鬼丸』になったのか?」
タケミカヅチ「そうでもあるし、そうでもない。鬼丸の意思もそこにある」
クニツナ「強く、なれたのか……?」
タケミカヅチ「実感が湧かないといった感じだな。ならば、目覚めるがよい。そうしてお前の力を示すが良い!」
クニツナ「目覚める……? そうだ! 俺、あれからずっとこっちに居て――え? って事は俺、ずっと眠りっ放しなのか?」
タケミカヅチ「その通りである」
クニツナ「お、起きたら、爺さんになってたとか、無いよな?」
タケミカヅチ「それは御伽噺の場合だ」
クニツナ「ここも十分そうだよ!」
タケミカヅチ「ハッハッハ! ――見よクニツナ、あの遠くに見える光を。あの光の向こうがお前が元居た場所である。彼処 まで辿り着いてみせよ!」
クニツナ「……何処だ?」
タケミカヅチ「む?」
クニツナ「俺には何も見えないぞ」
タケミカヅチ「では闘神の眼で見るのだ」
クニツナ「闘神の眼……?」
タケミカヅチ「見えてきたであろう」
クニツナ「……遠っ!!??彼処 まで走れってのか!?」
タケミカヅチ「ハッハッハ。これもまた試練である!」
クニツナ「む、無茶苦茶な……」
タケミカヅチ「此度 は我も供する。では行くぞ、クニツナ!」
クニツナ「あ! ま、待てよ! タケミカヅチのおっさん!」
遠くの光に向かって、走り始めるクニツナとタケミカヅチ。
クニツナ「待ってろよ、皆……!」
第十二話に続く。
お疲れ様でした。
感想は下部 コメント投稿欄 か 送信フォーム へ。
生放送等で使用される場合、
台本名を記入して頂けますと嬉しいです。
後日覗きに参ります。
♂:2 ヒサクニ、タケミカヅチ
♀:1 スズ
不:2 クニツナ、クニヤス
モブ:兵士(甲・乙)
クニツナ、クニヤスは少年の為、不問としています。
ヒサクニは
兵士は
また、今回はセリフのない役ですら似通った名前が非常に多いのでお気を付け下さいませ。
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あらすじ
時は幻想戦国時代。『
ツネツグ、ミツヨらがそれぞれ旅立った頃、クニツナは眠りについたままであった。
ミツヨやシロガネに守られながら、クニツナは深い精神の世界にいた。
己を強くするため、闘身の高み『
クニツナの精神世界。
タケミカヅチと稽古をするクニツナ。
その身には闘神となった鬼丸をまとっている。
クニツナ「うおおおおりゃああああっっ!!」
タケミカヅチ「チェェェエストォォォオッ!!」
タケミカヅチの拳を喰らい、吹き飛ぶクニツナ。
クニツナ「ぐわああああっ!!」
タケミカヅチ「どうしたクニツナ! まるでなっていないではないか!」
クニツナ「ま、まぐれだってんだ!」
タケミカヅチ「そんな事では我の膝は地に着かんぞ!」
クニツナ「今に、見てろってんだ! うぅりゃあぁっ!!」
タケミカヅチ「ふんっ!」
クニツナ「てやっ! はっ!」
連撃を見舞うクニツナ。
それらを全て受け流すタケミカヅチ。
タケミカヅチ「確かに、徐々にではあるが、
クニツナ「でりゃあっ!」
タケミカヅチ「
クニツナ「はあっ!」
クニツナの拳を受け止めるタケミカヅチ。
タケミカヅチ「即ち、闘身と一つにならんとしている!」
タケミカヅチ、クニツナの脚を払う。
クニツナ「ぐぅ!? うわぁ!?」
体を崩し、仰向けになったクニツナの顔面ぎりぎりに拳を振り落とすタケミカヅチ。
タケミカヅチ「で、あるが。まだまだ甘い」
クニツナ「くっそぉお……!!」
悔しさのあまり、地面に拳を打ちつけるクニツナ。
クニツナを跨いでいた体を戻すタケミカヅチ。
タケミカヅチ「我が
クニツナ「畜生ぉ……なんでだ……!?」
タケミカヅチ「クニツナ。闘身とは、何ぞや」
クニツナ「えっ――」
タケミカヅチ「答えよ」
クニツナ、暫時思案した後に言う。
クニツナ「闘身は……闘身は、俺だ! 闘身は、侍の魂。侍の魂は、俺の魂だ!」
タケミカヅチ「ほう。良い師を持ったな、クニツナよ」
クニツナ「あったり前だ!」
タケミカヅチ「だが、御主は誰ぞからこうも聞いたはずだ――『闘身とは、闘う心。闘争心』だと」
クニツナ「そ、それは、ヒルコが――」
タケミカヅチ「間違っているとでも言いたげだが、クニツナよ、これは全く違う訳でも無いのだ」
クニツナ「なんだって?」
タケミカヅチ「御主はまだ若い。故に強敵と闘うことを恐れない。しかしそれは“
クニツナ「ゆ、勇気ならあらぁ!」
タケミカヅチ「ふっ――では、今またお前はシノギと闘えるか?」
クニツナ「!?」
タケミカヅチ「どうだ」
鉱山の一件が呼び起こされるクニツナ。
二の句が継げない。
クニツナ「くっ……」
タケミカヅチ「綻びはいつか布を裂く。ヒビはいつか刀を折る――クニツナ、御主に試練を与える」
クニツナ「う、受けてやるよ……!」
タケミカヅチ「良かろう。だが、御主にとって、これは辛い試練になろう……ムムムム……ハァ!!」
クニツナ「うわっ!?」
光の様な、辻風の様なものを感じ、目を瞑るクニツナ。
再び目を開けた時には、どこかの村に居た。
クニツナ「なんだ……? なんだよコレ……ここは、ここは何処だ?」
ヒサクニ「こらっ! クニツナ!」
クニツナ「うわぁあ!?」
突然の怒鳴り声に驚き、振り向くと、見覚えのない――と言い切れない青年、ヒサクニが立っていた。
クニツナに歩み寄る。
ヒサクニ「お前またトシ坊にコブ作っただろ!? 来い! 一緒に謝りに行くぞ!」
クニツナ「な、な、なんだよいきなり!? あんた、誰だよ――」
ヒサクニに手を取られ、なすがまま引っ張られるクニツナ。
ヒサクニ「あ! トシのお母さん! ウチのクニツナが、この度はとんだご無礼を……ほら、お前も頭下げろ!」
クニツナ(コイツ……どこかで……)
スズ「こらっ! クニツナ!」
クニツナ「えっ?」
頭を上げると、空間が一息に変わって、これもまた見覚えのある様な家の中に変わる。
夕餉の時間の様だ。
着物をゆるく着た女性――スズが奥に座っている。
クニツナ「い、いつの間に? 家……?」
スズ「何ぼうっとしてんだい。早く喰いな。飯が冷めちまうじゃないか」
クニツナ「え……あの」
クニヤス「早く食えよクニツナ」
クニツナ「お、おう」
スズ「クニトモ、喰い終わったらヒサと裏見に行って薪を数えてきな。おらキヨ! 飯がこぼれてんじゃないか。アリクニ、なんだいその足は? ちゃんとしな!」
クニツナ「……」
クニヤス「……もらいっ」
スズの気風に押されているクニツナ。
クニヤス、クニツナのおかずを奪う。
クニツナ「あっ!?」
クニヤス「ぼっとしてるお前が悪い」
クニツナ「俺の飯だぞ!?」
スズ「ヤス! まだお前の分があんだろ! 何クニツナのを盗ってんだ、返してやんな!」
クニヤス「はぁい」
渋々とクニツナにおかずを返すクニヤス。
ヒサクニ、心配そうにクニツナに声をかける。
ヒサクニ「クニツナ、具合悪いのか? 何も口にしてないじゃないか」
クニツナ「わ、悪くないけど……」
ヒサクニ「そうか。好き嫌い無く食えよ」
クニツナ(皆、どこかで、見たことある……どこで……?)
スズ「アンタ――淋しいだろうから、来てやったよ」
クニツナ「また――あれ? ……ここは」
森を抜けた、小高い丘――と形容するにはあまりにも狭い場所。
すぐ下は崖となっているが、遠くには田畑が広がり、雄々しい山々も見える。
スズの前には、粗末な墓標が立てられていた。
木には〔粟田〕や〔国〕と、たどたどしく刻まれている。
スズ「もうすぐ、アンタの命日だよ……」
スズ、持ってきた濁酒を墓標にかけ、残った分を飲み干す。
スズ「一年――あっという間の様な、永かった様な……クニトモは、相変わらず無愛想だけど、立派に田畑を耕して、大したもんだよ。ヒサクニは弟達の面倒をよく見てくれてるし、クニヤスはまだまだ悪さしてるけど、元気に育ってさ……クニキヨ、アリクニなんか二人してそこら中を駆けずり回って……それに、アンタ、見なよホラ――」
スズ、横に居たクニツナの手を引き、墓標の前に立たせる。
クニツナ「っ……」
スズ「クニツナ、こんなに大きくなったんだよ……皆、つつがなくさ……アンタのおかげでさ……」
クニツナを背から抱きしめるスズ。
クニツナ「……父ちゃんと、母ちゃん……じゃあ、さっきのも、皆――」
クニヤス「おっ母! 大変だよ隣の村が燃えて! お侍がいっぱい!」
クニツナ「!?」
クニツナが気が付くと、自分の家に戻っていた。
物々しい雰囲気を一気に感じて、拳をぐっと握りしめている。
ヒサクニ「おっ母、お侍が来る前に此処を――」
スズ「黙んな! アタシらが、誰のお陰で今日まで生きてこれたと思ってんだい!? ……アタシらの村はアタシらで守るんだよ。父ちゃんの様に」
クニヤス「!?」
ヒサクニ「……」
スズ「クニトモ、すぐに
クニトモ、静かに頷くと颯爽と家を出る。
クニツナ、眠っていた記憶が段々と甦ってくる。
クニツナ「あ……あ……」
スズ「お前たち、封印を解く時だよ」
ヒサクニ「ふ、封印って、まさか」
スズ「抜くんだよ……闘身を」
クニヤス「闘、身……」
ヒサクニ「でも、おっ母……」
クニツナ「――思い出した」
スズ「……わかったよ。アタシが手本を見してやる。アタシを真似しな」
クニツナ「母ちゃん……ダメだ……!?」
クニツナ、スズに歩み寄ろうとするが体が動かない。
クニツナ「身体が、動かない……?」
クニツナ、ふと気が付くと、自分の身体が小さくなっていることに気が付く――当時の自分自身になっていたのである。
意識のみが今の自分のまま、自分の記憶を追体験していることに気が付いた。
クニツナ「こ、これは……俺だ……あの時の、俺だ」
スズ「アンタ……許しておくれよ……出な――『
クニヤス「うわっ!?」
クニツナ「あ、あれが……母ちゃんの……鬼丸……?」
クニツナたちの目の前には、鬼丸に瓜二つの闘身『善鬼』が顕現したのであった。
ヒサクニ「こ、これが、闘身……!?」
スズ「ヒサクニ、クニヤス、クニキヨ、アリクニ……お前たちも皆、闘身を
ヒサクニ「……トモ兄も?」
スズ「お前たちは皆、アタシの血を継いでる。クニトモは既に闘身を抜いている頃だよ」
ヒサクニ「……わかった。皆、見てろよ……」
ヒサクニ、立ち上がって皆より一歩前に出る。
クニヤス「ヒサ兄?」
ヒサクニ「……はああっ! 我が闘身よ、この声に応えよ……『
クニツナ「そうだ……皆」
ヒサクニ、僧兵の様な闘身『明堂』を抜く。
クニツナやスズと同じく、顕現式闘身だ。
スズ「……上等だよ。さぁ、皆もヒサに続きな」
ヒサクニ「ヤス、お前もできる。やってみろ」
クニヤス「お、おう……! はあああっ……!!」
クニツナ「ダメだ……ダメだ! 行っちゃダメだよ! だって、だってよぉ!?」
クニツナ、声をかけるが、もう誰も自分の声が耳に入っていない様である。
スズ、クニツナに歩み寄る。
スズ「クニツナ……」
クニツナ「……母ちゃん……!!」
スズ「お前にまでこんな思いさせなきゃいけないなんて……アタシを……母ちゃんを許しておくれ……」
クニツナ「母ちゃん……」
ヒサクニ、スズの肩に手を置く。
ヒサクニ「おっ母、クニツナは、俺が守る」
スズ「……トモも、ヒサも、父ちゃんそっくりになってきちまったね……頼んだよ」
クニヤス「おっ母! トモ
クニツナ「……兄貴……ッ!!」
ヒサクニ、今までに見せたことも無い深い悲しみに包まれた顔を浮かべ、囁く。
ヒサクニ「もしもの時は、お前だけでも、生き残ってくれ」
クニツナ「待って、待ってくれよ……俺も! 俺も『鬼丸』で! 一緒に闘う! くそ! 動け! 出ろよ鬼丸!!」
最早自分の意思で動くこともできないクニツナ。
記憶は更に進む。
スズ「いくよ、お前たち」
クニツナ「駄目だよ、いったら、いったら……!!??」
村の前、眼前には呆れ返るほどの兵士たち。
対してこちらは十数名ほどの農民と、十数体の闘身。
先頭に立つスズが大喝一声を放つ。
スズ「いかなお侍方といえど! 我らの郷を踏み
クニツナ「母ちゃん! 兄貴! 皆っ!!」
ヒサクニ「行くぞ明堂!!」
クニヤス「うおおおおおおおっっ!!」
クニツナ「やめろおおおおおっっ!!」
クニツナの咆哮が空しく木霊する。
戦いは、最初こそスズらが圧倒していたが、多勢に無勢。
次々と、傷つき倒れていく農民たち。
やがて、村に火の手が上がる。
クニヤス「火が! 火が上がってるよぉ!」
狼狽したクニヤスが、ヒサクニの下に駆けてくる。
クニツナ「ヤス兄ぃ! 逃げろぉ!」
ヒサクニ「ヤス!!??」
クニヤスの後頭部から、矢が直撃する。
クニヤス「がっ!?」
その後続けて第二矢、第三矢とクニヤスを貫いていく。
クニヤス「……あ……ヒサ、おっ母ぁ……」
ヒサクニ「ヤスぅぅぅぅっ!! うあああああっっ!!」
ヒサクニ、怒りに任せて周囲の兵を惨殺。
クニツナ「兄貴ぃ……兄貴ぃ、逃げてくれぇ……」
クニトモ、絶命しているにも拘らずその場に立ったまま動かない。
兵士甲「なんだコイツ! いくら刺しても切っても倒れねぇ!」
兵士乙「た、立ち往生だ……! こいつぁ、あの弁慶の生まれ変わりか!?」
クニツナ「トモ兄ぃ……トモ兄ぃ……もういいよぉ」
スズ「……村が、燃えてる……アタシの子も、皆、死んでく……」
スズ、両目から血の涙が流れている。
最早何の視界もない様であった。
辺りには、何十何百と薙ぎ払ったかわからない死体たちで埋め尽くされていた。
スズ「アンタ……アンタが愛してくれたこの身体、もう誰にも汚さしゃしないよ……アタシの命と引き換えに、こいつら――」
兵士甲「この……この化けモンがぁ!」
スズの腹を、兵士の一本の槍が刺し貫くと、それに続けて四方八方から串刺しにされる。
スズ「ぐふぅ!!?? ――そうさ、それでいいんだよ……お前さんたち、アタシと一緒に
兵士甲「な、なんだ!? うわあああああっ!!」
クニツナ「母ちゃん……母ちゃああああああんっ!!」
スズの身体が光ったと思うと、爆発が起きる。
クニツナの意識もどこかへ行ったかと思うと、父の墓標のあった丘に切り替わる。
ヒサクニ「クニ、ツナ……クニツナ」
クニツナ「!?」
声に応じて目を開くと、重傷を負ったヒサクニが居た。
どうやらクニツナを庇いながらここまで逃げてきた様だ。
ヒサクニ「目が、覚めたか……良かった」
クニツナ「兄貴、兄貴、嫌だ、もう嫌だ嫌だよ、もう、何もしなくていいよ……兄貴、兄貴が死んじゃうよぉ」
ヒサクニ「クニツナ……お前だけでも、生きてくれ」
クニツナ「兄貴……」
ヒサクニ「そして、幸せに――」
兵士乙「やああああああっ!!」
ヒサクニ「!? でやあああっ!!」
突如現れた兵士。咄嗟に構えるヒサクニ。
振り向きざまに明堂の攻撃を当てるも、自分の胸にも深々と槍が突き刺さる。
ヒサクニ「……クニ、ツ……」
ヒサクニ、力尽きる。
クニツナ「……うああああああああああああああっっっ!!!」
全てが暗転する。
後に残ったのは、うずくまって、泣きじゃくるクニツナとそれを見守るタケミカヅチの姿であった。
長い、長い慟哭の後、タケミカヅチが口を開いた。
タケミカヅチ「これが、お前が閉ざしていた、お前の記憶である」
クニツナ「うっ……ううっ……母ちゃんも、兄貴も……皆、村を救おうとして……戦って……皆……死んじゃって……どうして……どうして、こんな事……」
タケミカヅチ「試練であるからだ」
クニツナ「試練……」
スズ「クニツナ」
クニツナ「!?」
ヒサクニ「クニツナ」
顔を上げると、当時の姿をしたスズと、ヒサクニが立っていた。
クニツナ「母ちゃん……兄貴……!?」
スズ「クニツナ……こっちへおいで」
ヒサクニ「クニツナ……こっちへおいで」
優しい眼で、クニツナを見ながら、ゆっくりと手招きしている。
駆け寄るクニツナ。
クニツナ「母ちゃん……兄貴!」
スズ「クニツナ……お前も、地獄へと」
クニツナ「!?」
ヒサクニ「道連れにしてやる!」
ヒサクニ、クニツナの首を絞める。
二人の姿はやがて醜い悪鬼に変貌していく。
クニツナ「ぐっ! かはっ! やめ……兄貴……!」
スズ「どうして、どうしてお前だけ」
ヒサクニ「生き残った……どうして、お前だけ!」
クニツナ「そんな……俺は……!」
スズ「お前も、私たちと」
ヒサクニ「同じ道を辿らせてやる!」
クニツナ「お、鬼丸ぅ……!」
苦し紛れに鬼丸をまとおうとするが、叶わず。
ヒサクニに投げ飛ばされてしまう。
ヒサクニ「小癪なぁ!」
クニツナ「うああっ!」
地面に打ちつけられ、転がるクニツナ。
スズ「なぁんだその貧弱な闘身はぁ!?」
スズの姿をした悪鬼に叩きのめされていくクニツナ。
クニツナ「な、殴れる訳……ぐはっ! ねぇじゃねぇかよぉ……」
ヒサクニ「ならば!」
クニツナ「ぐっ!?」
スズとヒサクニの手で吊り上げられていくクニツナ。
息ができない。
スズ「この場でとどめを刺してくれる!!」
ヒサクニ「俺たちと同じ運命をお前に辿らせてやる!!」
クニツナ「……それで……」
タケミカヅチ「……」
タケミカヅチはじっと事の次第を眺めているのみ。
クニツナ「それで、母ちゃんの、兄貴たちの、気が済むなら……」
タケミカヅチ「やはり、肉親には抗えぬか……む?」
クニツナ「兄貴の……気が……“兄貴”……?」
タケミカヅチ「……!」
クニツナ「兄貴……シノギ……ムネチカ……ツネツグ、ミツヨ、皆……!!」
タケミカヅチ「おお……」
クニツナ、スズとヒサクニの手首を両手で掴む。
クニツナ「なら、なんで俺だけを」
ヒサクニ「!?」
クニツナ「『俺だけでも』って、俺を生かしてくれたんだよ? 逃げなかったんだよ!? 俺だけでも生きて欲しかった、そうだろう!?」
スズ「う……ぐ……!」
クニツナ「今だ!」
クニツナ、隙を見て自分を締め上げていた手から逃れる。
ヒサクニ「ぐあっ!?」
スズ「しまった!」
クニツナ「俺は、もう後悔はしない! 母ちゃんや兄貴、シノギや、“兄貴”の分まで生きる! 強くなって、生き続けることが、俺にできる兄貴たちへの恩返しだ!」
ヒサクニ「生意気なあああ!!」
クニツナ「だったら何なんだああああああ!!」
タケミカヅチ「おおお!!」
クニツナ「
クニツナの闘身『鬼丸』が甲冑と一振りの刀の様に変化し、クニツナの身を包む。
タケミカヅチ「成った……成ったぞ!」
クニツナ「
スズ「ううっ!?」
ヒサクニ「こ、これは……!?」
タケミカヅチ「これぞ……! これぞ闘身の高み! 神の領域に上り詰めた闘志! 銘は、
クニツナ「我が
スズ「おのれええええええええっ!!」
クニツナに飛びかかるスズ。
クニツナ「母ちゃん……母ちゃんの意志、俺が継ぐよ……
クニツナ、気合を込め、両の掌を組み、スズに突き出す。
気功と共にスズに拳が命中。
スズ、光の中に消えていく。
スズ「ぐあああああっ!!」
クニツナ「母ちゃん……」
ヒサクニ「クゥゥニィィイツナァァァアッ!!」
ヒサクニもまた、クニツナに飛びかかっていく。
クニツナ、腰に佩いた刀を抜く。
クニツナ「兄貴……兄貴たちの分まで……俺は生きるよ……
クニツナ、一振りでヒサクニを両断する。
ヒサクニ「がああああっ!!」
ヒサクニもまた、光の中に消えていく。
クニツナ、体力を消耗したのか、膝をつく。
クニツナ「……くっ」
タケミカヅチ「これが、闘神の力……!!」
クニツナ「はぁ……はぁ……」
朦朧とした意識の中で、スズとヒサクニの声が聞こえてくる。
スズ「大きくなったわね、クニツナ」
クニツナ「!?」
ヒサクニ「ああ。自慢の弟だよ、お前は」
クニツナ「母ちゃん……兄貴……?」
スズ「……」
ヒサクニ「……」
笑顔でクニツナを見遣るスズとヒサクニ。
背後からはクニヤスやクニトモ、兄弟たちが現れ、クニツナに手を振る。
クニツナ「皆……!!」
皆の姿が遠くなり、やがて消えていく。
タケミカヅチ「見事なり! クニツナ!」
クニツナ「タケミカヅチのおっさん……!!」
目にも留まらぬ速さでタケミカヅチの頬にフックを当てるクニツナ。
タケミカヅチ、わざと避けず止めず、黙って拳を喰らう。
クニツナ「ひでぇ夢見させてくれるじゃねぇか」
タケミカヅチ「しかし、御主はそれを乗り越えた。決してそれは、容易なことではない。その成果が、その姿である」
クニツナ「……なんで受け止めなかった」
タケミカヅチ「せめてもの、情けである」
クニツナ「……」
タケミカヅチ「その拳の速さ、強さ、正しく今までと比べ様もない。我が膝をつくのは、時間の問題であろう」
クニツナ「……俺が『鬼丸』になったのか?」
タケミカヅチ「そうでもあるし、そうでもない。鬼丸の意思もそこにある」
クニツナ「強く、なれたのか……?」
タケミカヅチ「実感が湧かないといった感じだな。ならば、目覚めるがよい。そうしてお前の力を示すが良い!」
クニツナ「目覚める……? そうだ! 俺、あれからずっとこっちに居て――え? って事は俺、ずっと眠りっ放しなのか?」
タケミカヅチ「その通りである」
クニツナ「お、起きたら、爺さんになってたとか、無いよな?」
タケミカヅチ「それは御伽噺の場合だ」
クニツナ「ここも十分そうだよ!」
タケミカヅチ「ハッハッハ! ――見よクニツナ、あの遠くに見える光を。あの光の向こうがお前が元居た場所である。
クニツナ「……何処だ?」
タケミカヅチ「む?」
クニツナ「俺には何も見えないぞ」
タケミカヅチ「では闘神の眼で見るのだ」
クニツナ「闘神の眼……?」
タケミカヅチ「見えてきたであろう」
クニツナ「……遠っ!!??
タケミカヅチ「ハッハッハ。これもまた試練である!」
クニツナ「む、無茶苦茶な……」
タケミカヅチ「
クニツナ「あ! ま、待てよ! タケミカヅチのおっさん!」
遠くの光に向かって、走り始めるクニツナとタケミカヅチ。
クニツナ「待ってろよ、皆……!」
第十二話に続く。
お疲れ様でした。
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